信州大学医学部歯科口腔外科レジデント勉強会

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Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine


いわゆる有病者の歯科治療

35. 非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)

2000.12.20 中塚

1.何故必要か?

 炎症は侵襲に対する生体反応の一つで、外傷性侵襲に対しては修復反応であり、感染性侵襲にとっては防御反応である。つまり生体にとって最も大切な反応の一つであるが、患者にとって苦痛となる疼痛・腫脹・発熱などの症状を引き起こす。これらの苦痛を緩和させる対症療法として必要である。

2.よく使用される酸性NSAID

1)ロキソニン(一般名:ロキソプロフェンナトリウム)
 体内動態:経口投与後、胃粘膜刺激作用の弱い未変化体のまま消化管から吸収され、その後PG生合成抑制作用の強い活性代謝物に変換され作用→プロドラッグ
 経口投与後、未変化体が約30分、活性代謝物が約50分で最高血中濃度に達し半減期はそれぞれ75分→プロドラッグとしては吸収・排泄が速い。
 投与方法:1.抜歯、手術後の鎮痛・消炎に対して1回60mgで1日3回(3〜5日間)、または頓用で60〜120mgが望ましい。吸収速度が速ため頓用に適していると考えられる。

2)ボルタレン(一般名:ジクロフェナクナトリウム)
 錠剤(25mg)と坐剤(12.5mg,25mg,50mg)がある。
 体内動態:1)錠剤 ボルタレン錠25mgを健常人に朝食1時間後に経口投与した場合、約2.72時間で最高血中濃度に達し、鎮痛効果の持続時間は6〜10時間であったという報告がある。2)坐剤 ボルタレン坐薬25mgおよび50mgを健常人に朝食1時間後に投与した場合約1時間で最高血中濃度に達し、持続時間は90分〜18時間で平均5時間であったという報告がある。
 投与方法:1)錠剤 成人に対する1日量は75〜100mg(3〜4錠)を3回に分けて経口投与。頓用の場合25〜50mgとして空腹時はなるべく避ける。2)坐剤 成人に対して1回25〜50mg1日1〜2回直腸内に挿入。

3.適応疾患

抜歯後,手術後,歯性感染症,外傷,癌性疼痛(麻薬を用いる前段階あるいは麻薬と併用して),発熱時

4.酸性NSAIDの使用上の注意

1)高齢者への投与
 薬剤の吸収低下、遅延が見られ、血中濃度の上昇(血清アルブミンの低下による非アルブミン結合薬剤濃度の上昇)、半減期の延長(腎機能の低下と肝血流低下による薬剤の排泄・代謝の遅延)、薬剤の蓄積を起こしやすい。また、他科での投薬を受けている場合が多いため薬物相互作用に注意する必要がある。(薬物相互作用については以下に記載する。)
 このため鎮痛剤としてセデスGを頓用として用いて、抗炎症剤として半減期の短いロキソニンを選択するのも一つの方法ではないかと考えられる。また高齢者は胃潰瘍を起こしやすいため胃粘膜保護剤(SM散、マーズレンS等)を併用する。発熱時に使用する場合、過度の体温下降とそれに伴うショックを起こすことがあるため半量投与して経過をよく追うのも大事であると思われる。

2)小児への投与
 基本的に安全性は確立されていない→最小限に投与することが重要。
高熱を伴う場合、過度の体温下降が見られる場合ある。
 年齢、体重に応じて投与量を決め、頓用で用いる。ポンタールシロップ0.2ml/kg、小児用バファリン7〜11歳で3〜6錠、ボルタレン坐薬0.5〜1mg/kgがある。 

3)妊婦への投与
 安全性は確立されていない。ロキソニンは禁忌。もし鎮痛剤を用いるならセデスGやピリナジン。

4)授乳婦への投与
 乳汁に移行するが歯科での使用では短期間であるため支障はない。

5)胃腸障害患者への投与
 NSAIDは5〜10%で胃腸障害を起こす→消化性潰瘍患者には投与禁忌でセデスGやピリナジンを使用

6)喘息患者への投与
 アスピリン喘息患者にはNSAIDに加えセデスGも禁忌。アスピリン以外の喘息患者にも慎重投与の扱いでピリナジン・アンヒバ坐剤(アセトアミノフェン)が良いかと思われる。

7)腎障害患者への投与
 NSAID投与で腎機能低下をきたすことがある。クリノリル(スリンダク)は腎でのPGの抑制少なく使用可能。

8)肝疾患患者への投与
 長期投与(2〜8週)で薬剤性肝炎が発症するといわれている。

5.薬物相互作用について

1)酸性NSAID

@ニューキノロン系抗生物質(ピリドンカルボン酸)との併用により痙攣誘発の可能性がある→併用禁忌
Aワーファリン(クマリン系抗凝固剤)との併用でワーファリンの作用増強をきたし、出血性素因をきたす→併用時の出血性素因の検査が重要。
B糖尿病薬剤のトルブタミド(スルホニル尿素系血糖降下剤)、インスリン製剤との併用で血糖降下剤の作用を増強し、血糖低下、低血糖ショックを起こす事がある。
C躁病治療薬のリチウム製剤との併用で、リチウム中毒を起こし、手指振戦、痙攣を認めるため慎重投与
D狭心症、不整脈、高血圧症に用いられるβ遮断薬であるインデラル(プロプラノロール)などは併用によりβ遮断薬の作用を減弱する。また、ボルタレンは強心剤のジゴキシン(ジギタリス製剤)の作用を増強するためジゴキシンの副作用に注意する。
E痛風治療薬のアンツーラン(スルフィンピラゾン)はアスピリンとの併用で尿酸排泄作用を減弱するた  め併用禁忌。またプロベネミド(プロベネシド)との併用によりNSAIDの作用を増強し、副作用に注意する。
Fステロイド剤との同時服用で、胃出血、胃潰瘍等の胃腸障害が頻発するため投与に際し注意が必要。

2)塩基性NSAID

 一般に他の薬剤との相互作用の記載はない→ニューキノロン系との併用可。しかし、他のNSAIDとの併用は望ましくない。ただし消炎鎮痛作用は緩和である。

 付)オステラック、ハイペン(エトドラク;インドール酢酸系消炎鎮痛剤)について

 ロキソニンにて胃腸障害や嘔吐感が出現した場合に、次に使用する消炎鎮痛剤と選択される場合がある。(ただし、消化性潰瘍のある患者には原則として禁忌である)。その理由として、作用機序においてプロスタグランジンE2選択的合成阻害作用(シクロオキシゲナーゼ-2選択的阻害作用)が認められるからである。(ロキソニンの活性代謝物は全てのプロスタグランジンの生合成抑制作用が強い)

 

<参考文献>

歯科におけるくすりの使い方    Dental Diamond

治療薬マニュアル 2000     医学書院

今日の治療薬 2000       南江堂

DRUGS IN JAPAN 2001   日本医薬情報センター                                     


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